昨日のNHK「クローズアップ現代」でも取り上げられていた。
農作物や家畜の品種改良から人の難病治療まで、幅広く使える「夢の技術」との期待が膨らんでいる。
その一方で、生命倫理や安全性についての議論が追いついていないと、現状を懸念する声も強まっている。
期待ー難病治療
ゲノム編集は、文章を編集するように、遺伝子の一部を自在に切り貼りする技術なのだ。
狙い通りに遺伝子を壊したり、付け足したりできるといいます。1990年代半ばに米国で開発されました。
特殊な酵素を使うことで、これまでの遺伝子組み替え技術よりも、はるかに効率良く遺伝子を変えられるのが特徴だ。
2013年には、優れた酵素が発表されて、一気に普及し始めた。
まず、期待されているのは難病の治療法の研究だ。
ゲノム編集の利用について研究する鳥取大の久郷裕之・染色体工学研究センター長は
「医学分野では重要なツールになる」と指摘している。
また、京都大の堀田秋津助教らは、全身の筋肉が衰える難病「筋ジストロフィー」の治療法の研究を進めている。
筋ジス患者の皮膚からiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作り、遺伝子の異常をゲノム編集で修復するのだ。
「この技術を筋ジスの治療につなげたい」という。
米国では、エイズウイルス感染者への臨床試験も始まっている。NHKの放送したのもエイズ患者の例だった。
感染者からとった正常な免疫細胞を、ゲノム編集で、ウイルスが感染しにくいように改変する。
その細胞を増やして、感染者に投与し快方に向かっている。
心配ー「デザイナー・ベビー」への危惧
だが、医療分野への利用に、一定の歯止めが必要だ、との声もある。
そのうち最も危惧されているのは、人間の受精卵を研究対象とするケースだ。
「頭が良い」「病気に強い」などの遺伝的な特質を人為的に持たせた「デザイナーペビー」を生み出しかねない、というのだ。
生命倫理の点で問題があると、米国のノーベル賞受賞者らは3月、米科学誌サイエンスで、「オープンな議論が必要だ」と訴えた。
これを無視する形で、中国の研究チームはこの4月、
「ゲノム編集で人間の受精卵の遺伝子を改変した」とする論文を発表した。
論文では、「狙い通りにいかず、技術はまだ不完全。胎児に成長する能力がない受精卵を使っており、倫理的問題はない」と主張した。だが、世界の研究者に波紋を広げた。
ゲノム編集によるエイズウイルス感染者の臨床試験を進める米バイオ企業の社長は
「受精卵の遺伝子改変は子孫に受け継がれるので、倫理面や安全面で問題か大きい」
と語る。
米ホワイトハウスは5月26日、
「現段階では受精卵の遺伝子改変を行うべきでない」という見解を発表した。
日本政府は、ゲノム編集に限らず、受精卵や精子、卵子の遺伝子を変えて赤ちゃんを誕生させることを、研究指針で禁じている。
だか、母胎に戻さなければ、受精卵を使う実験は規制していない。
ゲノム編集で受精卵を操作することについて、文部科学省生命倫理・安全対策室は「重要な問題。動向を注視する」と述べている。
ゲノム編集の研究は、農作物や家畜の品種改良などでも進んでいる。
筑波大の江面浩教授(植物分子育種学)は、ゲノム編集で『腐りにくいトマト』を作ろうとしている。
既に薬品を使って腐りにくいトマトを作っているが、10年かかった。
これがゲノム編集を使うと、このトマトと同じ遺伝子を持つ苗を、わすか1年足らずでできたという。
京都大の木下政人助教(水産学)らは昨年、マダイの筋肉の成長を抑える遺伝子を壊し、身を大きくすることに成功した。米国では、同じ原理で肉の多い牛を作る研究が進んでいる。
ただ、国立医薬品食品衛生研究所では「食品としての安全性は未確認だ」としている。
人為的に遺伝子を組み換えた生物が自然界に漏れると、生態系に悪影響を与える可能性がある。
それを規制する国際ルール「カルタヘナ議定書」がある。
環境省野生生物課は
「ゲノム編集で作った生物は想定外で、議定書で取り扱いが決まっていない。研究の動向を注視する必要がある]と話している。
●ゲノム編集の凄さ-2
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